がめたり、小さな雪がちらちらとふっているなかを何んとなく歩いてみたりしていた。雪の質は乾いてさらさらとしているし、風もないので、零下何度だか知らないけれど、寒さはそうひどく感ぜられなかった。そのうちに、向うの厩《うまや》の中から、さいぜんの若い馭者が馬の口をとりながら、一台の雪橇《ゆきぞり》を曳き出して来るのが見えた。僕は雪橇《ゆきぞり》というものをはじめて見た。――粗末な箱型をしたものに、幌《ほろ》とはほんの名ばかりの、継ぎはぎだらけの鼠《ねずみ》いろの布を被《おお》っただけのものである。馭者台《ぎょしゃだい》なんぞもない。それもそのはず、馭者は馬のさきに立って雪のなかを歩いてゆくのである。
 その橇が自分の前に横づけになったものの、どこから乗っていいのか分からないでまごまごしていると、馭者が飛んできて、幌をもちあげながら入口をあけてくれた。ふとそのなかに茣蓙《ござ》の敷いてあるのが目にとまったので、僕はいそいで靴をぬごうとすると、その儘《まま》あがれという。そこで僕はほんのまね事のように外套《がいとう》を叩いたり、靴の雪を払い落したりして、首をこごめるようにして幌の中にはいった。そ
前へ 次へ
全127ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング