も、四方から雪を吹きつけられているので、どのくらい雪が深いのだかちょっと見当がつかない。橇道はちゃんとついているらしいが、ずっと上りづめらしく、馬も、馭者も、ずいぶん骨を折っているのだろうと思った。
 又、橇がとまった。こんどはだいぶ長くとまっているな、と思っていると、雪の中から急におもいがけない話しごえが聞えだした。どうやら向うから下りてくる雪橇があって、道をゆずりあっているらしい。――「まだあとからも来るか」と向うの馭者が問うと、
「いや、もうこれが最後だ」とこちらの馭者が答えている。……そのうち僕の橇が動きだして向うの橇とすれちがおうとするとき、突然、向うの馭者が何かはげしく自分の馬を叱したので、ひょいと例の穴からのぞいて見ると、道を避けようとして片がわの積雪のなかへ深くはいり込んでしまった橇を曳き出そうとして、一しょう懸命になっている馬は、ほとんど胸のあたりまで雪に埋っていた。なんども前脚を雪のなかから引き抜こうとしてば、そこらじゅうに雪煙りをちらしていた。僕もそのとばっちりを受けそうになって、いそいで顔をひっこめたが、向うの橇はすっぽりと幌を下ろしてはいるものの、空のようだっ
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