學説が初めて巴里に這入り込んできたときの話をし出してゐる。フロイドの弟子である、あるポオランドの婦人がやつてきて彼女の小さなサロンで初めてその學説を紹介した。その會にはN・R・Fの作家たちも殆ど全部出席した。しかし或者にはその會の目的は科學ではなかつた。それを氣晴らしだと思つてゐた。だんだん皆は不注意になり、不眞面目になつて行つた。そして最後の會はとうとう馬鹿笑ひの中に終つた。
 その會はそんな不首尾に終つてしまつたが、しかし精神分析に對する興味はガボリイをプルウストの方へ導いて行つた。プルウストは勿論フロイドを知らないだらうし、フロイドも恐らくプルウストを讀んでゐないであらうが……
 その時丁度、ガボリイはN・R・Fの社長から「ソドムとゴモル」の校正を託されたのだ。

          ※[#アステリズム、1−12−94]

「『ソドムとゴモル』の書き出しは私に私の初期のボオドレエル熱を思ひ出させた。」とガボリイは書いてゐる。
「……ボオドレエルの思ひ出が私をプルウストの作品へ導いて行つた。プルウストとボオドレエルの間には多くの類似點があるのだ。プルウストはボオドレエルのやうに、死
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