に先立つところの死苦[#「死に先立つところの死苦」に傍点]をはつきりと知つてゐた。又彼のやうに、少からずカリカチュアの趣味、レスビアンの趣味を有つてゐた。『ボオドレエルに就いて』といふジャック・リヴィエェルに宛てた手紙の中で、彼は『惡の華』が最初は『レスビアン』と題されてゐた事を、そして『惡の華』といふ題はバブウによつて發見されたのであることを喚起させてゐる。又二人とも屡々珍らしい形容詞を搜してくる。ボオドレエルが『秋の歌』の中で「出發のごとくに響く」ところの「神祕な物音」と形容したのは、プルウストが『ソドムとゴモル』の中で一少女の笑ひを「ジェラニウムの香りのやうに、きつくて、肉感的で、挑發的な笑ひ」と形容したのにも比較されよう。二人の間には、もつと他の類似點がある。不意打[#「不意打」に傍点]に關するボオドレエルの理論と、プルウストの作品の中にまるでヴォドヴィルのやうに仕組まれてある多くの不意打[#「不意打」に傍点]の効果と。ボオドレエルの傳説と、プルウストの傳説と。それから惡魔主義がボオドレエルの作品に於けるのは、スノビスムがプルウストの作品に於けるやうなものだ。ともに裝飾であり、
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