彼の眼差が注がれ、その餘白やその端に貼られてある(まるで未知の國の地圖のやうに擴げられる)薄つぺらな紙の上に彼が澤山の書入れをした、この原稿を諸君は何と見るか?」
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* 重態になつてゐたプルウストには「囚はれの女」の原稿を訂正することが出來なかつたので、前に「ソドムとゴモル」の校正を見たガボリイがその仕事を託されてゐた。「囚はれの女」は彼の死後間もなく刊行された。
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※[#アステリズム、1−12−94]
ガボリイは「ソドムとゴモル」の校正をするまではプルウストを殆ど讀まないでゐたことを告白してゐる。
「スワン家の方」の最初の部分をほんの少し讀んで、なんだかそれから晦澁な、ぎごちない印象を受けたままそれを放棄してしまつたのだと云ふ。そしてそれの文章の長過ぎることを彼は讀まない口實にしてゐた。ともかくも彼はプルウストを理解しなかつたのだ。が、心の底ではそれが單なる時の問題にすぎないやうに感じてゐた。
さう云ふガボリイをプルウストの方へ導いたのは、フロイドだつたのだ。
そこでガボリイは、フロイドの
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