ういうところへわれわれを引きずり込んでゆくように思われるんですけれど……。
 主 確かにそういうところがあるだろう。これから君たちは大いにそういう fatal なものと戦ってみるのだね。僕なんぞも僕なりには戦ってきたつもりだ。だんだんそういう fatal なものに一種の詮《あきら》めにちかい気もちも持ち出しているにはいるが。しかし、まだまだ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《も》がけるだけ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]がいてみるよ。……(ぱあっと夕日があたって来だしたのを見て、窓をあける。)毎日、こうして雪のなかの落日を眺めるのが愉《たの》しみだ。なんだか一日じゅう、冬の日ざしが明る過ぎて、室内にいても雪の反射でまぶしくって本も読めずに、ぼやぼやしながらその日も終ろうとする、――そんな空《うつ》ろな気もちでいるときでも、この雪の野を赤あかと赫《かが》やかせながら山のかなたに落ちてゆこうとしている日を眺めると、急に身も心もしまるような気がするのだ。君はいま、こういう落日をみながら、どんな文学的感情を喚《よ》び起《おこ》すかね?
 学生 そうですね。僕には、いま
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