きである。彼は叔母と一しょに食堂の、それひとつあれば七八人ぐらいのお客には充分間に合いそうな、大きな円卓子《まるテエブル》につこうとして、さて、それがあんまり大き過ぎるので、何処へ坐ったらいいのかまごまごした。
「どうも具合が変だなあ……」
「すこし遠くても、向い合って坐った方がよくってよ。……でも、二人になったから、これでもまだ恰好がつくのよ。私一人のときは、ほんとうに持て余してしまった……」
 彼は彼女の云うとおりに彼女と差し向いに坐った。しかし、卓子の向側とこちら側で話し合うには、よほど大きな声を出さなければ聞えないような気がした。そこで彼は食事の間だけ沈黙することにした。そのかわりに彼は食事をしながら、その食卓掛けのよく洗濯《せんたく》してあるけれど色がひどく剥《は》げちょろになっているのや、アルミニウムの珈琲沸《コオフィイわか》しの古くて立派だけれどその手がとれかかっていると見えて不細工に針金でまいてあるのや、どれもこれもちぐはぐな小皿に西洋草花が無邪気に描かれてあるのやを一々丁寧に眺《なが》めまわしていた。これらの物もみんな前の老夫婦が置いていったものらしい。……
 そのと
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