叔父さんは?」
「ずっと東京よ……また痩《や》せっぽちが二人寄ってたかってきっと笑うことよ」
「ふ、ふ、僕もここへ来る途中で考えたんですがね……」
「…………?」
「あのね、昔はそれでも、叔母さんと僕とで目方を合せると叔父さんのよりは五|瓩《キロ》ぐらい多かったでしょう。でも、もう駄目《だめ》なの。……僕はあの頃から見ると五瓩はたっぷり減ってしまったからなあ」
「そのかわり、叔母さんはすこし肥《ふと》ったでしょう?……」
 そう言われても、彼はもう叔母さんの方を見ようともしないで、元気なくじっと目をつぶっていた。……


 その羊歯の密生している叔母の別荘には、去年まではスコットランド人らしい老夫婦がいかにも品よさそうに暮していた。毎年の夏、彼は散歩の折などこのへんの草深い小径が好きでよくこの家の前を通ったものだが、その度毎《たびごと》にいつもその老夫婦がヴェランダに出て黙ったまま、お茶かなんか飲み合っているのを見かけたものだった。なんでも三十年近く日本で宣教師をしている人だそうだが、そんな宣教師というよりも寧《むし》ろ哲学者かなんかのように見えた。この高原のどんな小径にでも勝手な名前
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