った。が、ただ彼女を取りまいているそういう混血児たちは何とはなしに不愉快だった。それは軽い嫉妬《しっと》のようなものであるかも知れないが、それくらいの関心は彼もこのお嬢さんに持っていたと言ってもいいのである。
それで彼は何の気もなくそのお嬢さんのあとから歩いて行ったが、そのうち向うからちらほらとやってくる人人の中に、ふと一人の青年を認めた。それは去年の夏、ずっと彼女のそばに附添ってテニスやダンスの相手をしていた混血児らしい青年であった。彼はそれを見るとすこし顔をしかめながら出来るだけ早くこの場を離れてしまおうと思った。その時、彼はまことに思いがけないことを発見した。というのは、そのお嬢さんとその青年とは互にすこしも気づかぬように装いながら、そのまますれちがってしまったからである。唯《ただ》、そのすれちがおうとした瞬間、その青年の顔は悪い硝子を透して見るように歪《ゆが》んだ。それからこっそりとお嬢さんの方をふり向いた。その顔にはいかにも苦《にが》にがしいような表情が浮んでいた。
このエピソオドは彼を妙に感動させた。彼はその意地悪そうなお嬢さんに一種の異常な魅力のようなものをさえ感じ
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