ルウベンスの偽画
堀辰雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)薔薇《ばら》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)彼|等《ら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]
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それは漆黒の自動車であった。
その自動車が軽井沢ステエションの表口まで来て停《と》まると、中から一人のドイツ人らしい娘を降した。
彼はそれがあんまり美しい車だったのでタクシイではあるまいと思ったが、娘がおりるとき何か運転手にちらと渡すのを見たので、彼は黄いろい帽子をかぶった娘とすれちがいながら、自動車の方へ歩いて行った。
「町へ行ってくれたまえ」
彼はその自動車の中へはいった。はいって見ると内部は真白だった。そしてかすかだが薔薇《ばら》のにおいが漂っていた。彼はさっき無造作にすれちがってしまった黄いろい帽子の娘を思い浮べた。自動車がぐっと曲った。
彼はふと好奇心をもって車内を見まわした。すると彼は軽く動揺している床の
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