を見ていようという気で、私はそれには差しさわりのないような返事しか差し上げなかった。その夜は頭の君もすぐお帰りになられたらしかった。

 そんな事があってから暫くは、頭の君も何かと遠慮がちになされて、私達のところへも余りお立ち寄りにはならなくなった。只|隙《ひま》さえあれば、道綱を呼びにお寄こしになって、別に為事《しごと》もないのにいつまでもお手放しにならなかった。それにはさすがの道綱も殆ど困っているらしかった。
 私も私で、撫子などを相手に、再び昔に返ったような無聊な日々を迎え出していた。昔に返ったような? ――しかし、それらの日々は私にとっては、前よりかもっと無聊で、もっと重くろしいところのあるのを認めない訣《わけ》にはいかなかった。私はそれをば撫子にも話して置かなければならない事をまだ話していないことの所為《せい》にしていた。どうせいつか話さなければならないのなら――と思いながらも、撫子のまだ余りに子供じみた身体つきや、もううすうす頭の君の求婚の事を勘づいていて、私からそれを聞かされるのをそれとなく避けているとしか思えない折々の羞《はず》かしそうな様子だのを見ると、私にはどうして
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