け》にだけでもお目にかかりに参りましょう」と言ってきた。暮れ方、頭の君はお言葉どおりお見えになられた。しようがないので、ともかくも蔀を二間ほど押し上げ、縁に灯をともして、庇《ひさし》の間にお通しさせる事にした。道綱が出て往って、「さあ、どうぞ」と言って、妻戸をあけ、「こちらから――」と促すと、頭の君はそちらへちょっと歩みかけられたが、急に思い返したように後退《あとず》さって、「お母あ様にここへはいるお許しを願って下さいませんか」と小声で押問答していた。やがて道綱が私のところに来て、それを取り次いだので「そんな端近くでも構いませんでしたら――」と返事をさせた。頭の君はその返事を聞くと、少しお笑いになりながら、もの静かに衣《きぬ》ずれの音をさせて、妻戸からおはいりになって来られた。
 ときおり向うの庇の間から、頭の君と道綱とが小声で取交わしている話し声に雑《まじ》って、笏《しゃく》に扇の打ちあたる音が微かに聞えてくる。私どものいる簾の中は、物音ひとつ立てず、しいんと静まり返っていた。それから稍《やや》あって、頭の君はまた道綱に取り次がせて、私に「こないだはお目にかかれずに帰りましたので、又
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