吹いていた日だったので、先刻から南面の蔀《しとみ》をすっかり下ろさせてあったので、それが丁度いい口実になった。
頭の君はそれでも強いて縁に上がられて、「まあ、円座《わろうだ》でも拝借して、しばらくここに坐らせて下さい」など言いながら、其処で道綱を相手にしばらく物語られていたが、「きょうは日が好かったので、ほんの真似事にでもこうして居初《いそ》めさせていただきました。これだけで帰るのはいかにも残念ですが――」と、すこし打《う》ち萎《しお》れた様子で、お帰りになって往かれた。
「思ったよりも品の好さそうな御方だこと」そんな事を思いながら、私は簾ごしにその後姿をいつまでも見送っていた。
それから二日程してから、頭の君は私のところへ留守中にお伺いした詫《わ》びなどを言いがてら、「本当にあなた様にだけでもお目にかかって、わたくしの真実な気もちをお訴えしたいのですが、自分の老いしゃがれた声などどうしてお聞かせ出来よう、などといつも仰せちれて私をお避けになるのは、それはほんの口実で、まだ私をお許し下さらぬからだと思われます」などと怨《うら》んでよこし「まあ、それはともかく、今夜あたりまた助《す
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