鳥《ほととぎす》も、いまはすっかり私にも打ち解けて、殆ど絶え間もなしに啼《な》いていた。水鶏《くいな》だって、わが家の戸を叩いたかと思うくらい近くを啼いてゆく。――それにしても、何んとまあ物思い自身の巣くっているような栖《すみか》なのだろうかしら。それは自分から思い立ってこうして居るのだから、誰も訪れてくれる者はなくとも、ちっとも辛いなどとは思いもしないし、むしろ気安くていいとさえ思ってはいるものの、只、歎かわしいと思うのは、こう云う物思いにもってこいのような栖をさえ自分から好んでせずにはおられなくなった自分の宿世《すくせ》の切なさと、――それともう一つは、自分の死後に、日頃こうして自分の傍を離れずに長精進なども共にして頼もしげに見える此道綱が、他には力にすべき人も居ないのでさぞ世間にも出にくいだろう、それにこうして精進している自分と同じような粗末な物をばかり食べさせているので、この頃はよく喉《のど》にも通らぬらしいのを見るのが自分には辛くてしようがない。――そんな事を考え続けながら、こんな思いを自分もし又子供にまでさせて漸っとこうして自分が気安くしているのかと思うと、遂にはその気安さ
前へ
次へ
全66ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング