かげろうの日記
堀辰雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)尤《もっと》も

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一向|無頓著《むとんじゃく》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+甘」、第3水準1−86−60]
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なほ物はかなきを思へば、あるかなきかの心地する
かげろふの日記といふべし。
                    蜻蛉日記

   その一

 半生も既に過ぎてしまって、もはやこの世に何んのなす事もなく生きながらえている自分だが、――一たい顔かたちだって人並でないし、これと云った才能もあるわけではないのだから、こんな風にはかない暮しをしているのも尤《もっと》もの事だとは思うものの、只こうやってぼんやりと明し暮しているがままに、世の中に多い物語などをおりおり取り上げて、その端《はし》などを読んで見ると、ずいぶん有り触れた空言《そらごと》さえ書いてあるようだから、自分の並々ならぬ身の上を日記につけて見たら、そん
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