かしいでしょう。こんどは僕のそういう生活ぶりだとか、これからしたいと思っている仕事のことなどすこしお書きしましょう。きょうはこれで失礼いたします。

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[#地から1字上げ]十月十五日、鎌倉にて
 こんどは多分|何処《どこ》かの湖畔であなたのお手紙を受取り、そこから又お便りを差し上げることになるだろうとおもっておりました。私は仕事のために小さい旅に出かけるばかりにしておりました。が、急に身体《からだ》の具合が悪くなり、医者の忠告で少なくともその日数だけは静かに寝ていなければなりませんでした。こうやって予定の仕事を持ちながら、それがつい延び延びになってゆくのは、本当に気が気でありません。しかし、きのうあたりからやっと元気になって、けさは日あたりのいいヴェランダでこの手紙に向えるようになりました。
 朝のうちは此処《ここ》にいると本当に気もちが好い。すぐ向うに古い松の木のこんもりした低山《こやま》があって、それが一めんに日をいっぱい浴びながら、その何処かしらにいつも深い陰をひそませている具合、――そのなんともいえない幽《しず》けさがいくら見ていても倦《あ》きないのです。病中
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