「美しかれ、悲しかれ」
窪川稲子さんに
堀辰雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蘇《よみがえ》らせられ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多分|何処《どこ》かの
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]十月六日、鎌倉にて
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[#地から1字上げ]十月六日、鎌倉にて
お手紙うれしく拝読いたしました。半年ぶりで軽井沢から鎌倉に戻ってきたばかりで、まだ何か気もちも落ちつかないままにお返事を遅らせておって申訳ありません。
丁度軽井沢を立ってくる前に、いただいた御本の中の「樹々新緑」などをなつかしく拝読して参ったばかりのところへ、又お手紙でその時分のことをいろいろと蘇《よみがえ》らせられ、本当に何から先にとりあげて御返事を書いたらいいのか分らない位です。
あの頃のこと――あなたがお手紙や「樹々新緑」の中でお書きになったその時分のこと――を思いうかべると、いつも僕の口癖のようになって浮んでくる一つの言葉があります。或る時はフランス語で、〈Sois belle, Sois tris
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