びしい美しさのうちには、先生の現在の深い嘆息がきかれるやうで、讀むたびに、何んともいへず惻々とした氣もちになつて參ります 又、私自身の現在の心境の象徴としては「なつぐさ」の小篇がことにありがたく、
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叢《クサムラ》の古代|日本《ニホン》の よろしさ――。
鴨頭草《ツキグサ》の 縹《ハナダ》深き瞳《マミ》――
たびらこ[#「たびらこ」に傍点]の空色の――小《チヒサ》き紋章――。
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さういふ矮叢のなかに見出される、古い日本のいじらしい美しさに心を惹かれては、そのあとに來る「おのれのゆゑ知らぬ氣おくれを叱りて、一擧に薙ぎ仆して火をかけぬ」といふ句にはつとさせられます 私のうちにある、ただいたづらに古い小さなものをなつかしまうとする、心の傾きへの、先生のお叱りのやうにさへ思はれます
御本のこと、いろいろ勝手なことを書いてしまひまして、御赦し下さい 私はこの冬になつてから、かへつて元氣になつて來ましたが、まだ自分に甘えて、何んにも書いて居りません 早くいいものを書きたいと思つてゐます しかし昔のやうに自分の氣もちだけを一すぢに歌へなくなりまし
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