たやうです これからは、何か、もつと「自己のうちにある自己を超えた自己」のやうなものを歌はなければならぬ、と考へて居ります
「古代感愛集」にある宗教的に莊嚴なものにこのやうに心を向けたがるのも、一つは、現在の自分の心のうちのさういふ相剋のためかも分りません
 もう一方では、先生や柳田さんの民俗學研究の根本精神のやうなものを、自分の書くものの上にも生かして行きたいものだと考へて居ります
 一つの「物語」が單なる一つの「物語」であるだけでなく、それが「人間性」についても、それと同時に「國民性」についても、深く教へるところのものであらせたいと思ひます さういふ古い口碑などの蘇生のしかたなどで、この頃はイェエツやシングなどのアイルランド文學をことに珍重いたし、少しづつ勉強し出してをります
 いろいろ先生の御教示を得たいことが一ぱいあるのでございますが、なかなかお目にかかれさうもないので、殘念でなりません
 どうぞ御壯健でいらしつて下さいませ
   一月二十二日[#地から3字上げ]堀 辰雄
 折口信夫樣



底本:「堀辰雄作品集第五卷」筑摩書房
   1982(昭和57)年9月30日初版第1刷
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
堀 辰雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング