ん》)。行《ゆ》く事十丁ばかりにして湿地あり、馬脚を没し馬腹《ばふく》に至る。近傍の地には蘆《あし》を生じ、其高さは予が馬上にあるの頭《かしら》を掩《お》うあり。此れを過ぎ、東には川を隔てて密樹あるの山あるを見る。亦平坦の地に至る。西には樹木の生ずる山あり。北には樹木無く、平坦なるの高き地に緑草の繁茂するを見たり。更に能く凝視するに馬匹《ばひつ》をつなぐ「ワク」あるを覚えたり。故に偶然に此れ我牧塲なるかと思いつつ、更に北に向うて進むに、一《いつ》の広き湿地あり。馬脚は膝を没するも馬腹に至らず。此れを過ぎて次第に登り、平坦地に至る。少しの高低あるのみなる広く大なる原野あり。内に道路あり、幅六七尺にして十字形を為して東西に分れ、南北に分れたるを見たり。余り不思議なるを以て、かかる無人境《むにんきょう》にて此道路は何たるやを土人に問う。土人答て曰く、此れは関牧塲にして、馬の往来するが為にかくはなりたりと。爰《ここ》に至りては予は実にうれしくして、一種言うべからざるの感にうたれて、知らず識らず震慄《しんりつ》して且つ一身は萎靡《なえ》るが如きを覚えたり。此時たるや、精神上に言うべからざるの感を
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