には、鞍《くら》にかじりつきても尚危く、或《あるい》は帽を脱せんとする事あり、或は袖を枝にからまれて既に一身は落ちんとする事|数回《すうかい》なり。且つ大樹の為に昼尚暗く、漸く案内者の跡を慕うのみ。頗《すこぶる》困苦するも、先ず無事に亦河を渡り、平坦の原野に出でたるも、また密林あり。(現今クンベツ)且つ行《ゆ》く処として倒れたる大樹ありて、其上を飛越え、或は曲り或は迂回する等《とう》は、迚《とて》も言語を以て語り筆紙を以て尽すべからざるあり。亦|一《いつ》の驚きたるあり、オヨチにては蝮《まむし》多くして、倒れ木の上に丸くなりて一処《いっしょ》に六七個あるあり。諸方にて多く見たり。其度毎《そのたびごと》にゾッとして全身|粟起《ぞっき》するを覚えたり。
平坦地を通り過ぐるの処に密林あり、湿地あり、小川あり。其|傍《かたわ》らに蕗《ふき》の多く生えたるあり。蕗葉《ふきのは》は直径六七尺、高さ或は丈余なるあり。馬上にて其蕗の葉に手の届かざるあり。試《こころみ》に携《たずさ》うる処の蝙蝠傘を以て比するに、其|大《おおい》さは倍なり。此れより川を渉《わた》りて原野に出でたり。(今の伏古丹《ふしこた
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