を増すのみならず、汗出でて厚く着重ねたる木綿|衣《ぎもの》は汗にて流るるが如きに至るを以て、自《おのずか》ら臭気を発して、一種の不快を覚ゆると其|苦《くるし》さとにて、一日《いちじつ》には僅に三四時間の労働に当るのみ。実に北海道の夏は、日中は最も炎熱甚しく、依て此厚着にて労働するが為めには実に労《つか》るる事多し。且つ畑の傍《かたわら》にて朽木《くちき》を集めて焼て小虫を散ずるとせり。故に少しの休息間にも、火辺にありて尚炎熱に苦むなり。
予は初めは和服にて蕨採りに出でし際に、小虫を耐忍する事|一時《ひととき》ばかりなるも、面部は一体に腫れ、殊に眼胞《まぶた》は腫れて、両眼を開く事能わず、手足も共に皮膚は腫脹《しゅちょう》と結痂《けっか》とにて恰《あだか》も頑癬《かさ》の如し。為めに四五日は休息せり。且つ頭痛と眩暈《めまい》とにて平臥《へいが》せり。
小虫を防ぐの着類は揃いて、皮膚及び眼胞の腫れも※[#「冫+咸」、190−5]じたり。依て蕨採りとして出掛て、藁叺《わらかます》を脊負い、手には樹皮にて作りたる小籠を持ち、草鞋はきたり。然るに小虫は四囲より集り、只眼のみあきたるにより、為に眼
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