にて包み、頸囲《くびのまわり》も密に巻き、手足に至る迄少しも隙無き様に働き着用の服類を用意して此れを用ゆる事と。丁寧に教えくれたるも、予は如何にも我慢をして小虫を忍ぶべしと強情を主張したるも、然れども実際に当ては迚も耐《たゆ》る事能わざるを以て、片山夫婦にわびして服従せり。依て片山夫婦に大に笑われたり。夫《そ》れよりは彼を着用する事とせり。其使用は面部は只眼を出《いだ》すのみ、厚き木綿にて巻き二重《ふたえ》とし、頸部も同じ薄藍色木綿の筒袖にて少しも隙無き様にして、且つ体と密着せしむ。腕にて筒袖口をくくり、隙無き様にして、脚には紋平《もんぺい》とて義経袴の如くにて上は袴の如く下は股引の如きものを穿き、足袋をはき、足袋との隙をくくるに厚き木綿を用ゆるなり。肌と着類の間に少しにても隙ある時は、小虫は此れより刺すを以て、隙の無きに注意するなり。此《かく》の如く着用するの貌《かお》を自らは其全体を見る事能わざるも、傍人の有様を見て、其昔宇治橋上に立ちて戦《たたかい》たる一來法師《いちらいほうし》もかくあらんかと思われたり。
かかる着用にて、炎熱の日に畑に出でたるには、炎熱と厚着の為めに全身は暑さ
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