たりしに、四囲より小虫の集る事は、恰《あだか》も煙《けぶり》の内に在るが如くにして、面部|頸《くび》手足等に附着して糠《ぬか》を撒布したるが如くにして、皮膚を見ざるに至れり。然れども甞《かつ》て决する事ありて、如何なる塲合にも耐忍すべきとするを以て、強て一時間ばかりにして眼胞《まぶた》は腫れて、且つ諸所に出血する事あり。此痛みと出血するとは耐忍するも、如何《いかん》せん払えども及ぶべからず。加之《しかも》眼胞は腫れて視る事を妨げ、口鼻より小虫は入《い》るありて、為めに呼吸は困難となり、耳内にも入りて耳鳴するのみならず、脳に感じて頭痛あるを忍ぶも、眩暈《めまい》を起して卒倒せんとするを以て、無余儀《よぎなく》小屋に向うて急ぎ逃げ去らんとするも、目くらみて急に走る事能わず。為めに小虫は身辺を囲みて離るる事無し。
漸く小屋に帰り、火辺にて煙の為に小虫の害を脱するを得たり。実に尚一時間も強て耐忍する時は、呼吸困難と、視る事能わざるに至らん乎。甞て聞く処あり、小虫の群集に害せられて危険に陥る事ありと。予は其実際に当《あたっ》て最も感ぜり。其以前に片山夫婦は予に示して曰く、面部は僅に眼を残して木綿
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