ずべきの生活を為したるも、却って健康なるを以て、日中は夫婦共に畑に出で鍬鎌を握る為めに、手掌《てのひら》は腫れ、腰は痛むも、耐忍して怠らず。然れども本年は最初たるを以て、樽川の収入にて若干《そこばく》の予定を※[#「冫+咸」、185−11]ずるを補わんが為めにて、决して焦眉の急を防ぐの為めにはあらざるなり。我等の子孫たる者は、此れを忘るる時は、必ずや家を亡すに至るべきなり。
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馬匹五十二頭
牛七頭
蒔付《まきつけ》一町余
ソバ、馬鈴薯《じゃがいも》、大根、黍は霜害にて無し。
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      (二)

明治三十六年
五月廿六日、寛は王藏に送られて牧塲に着す。
同《おなじく》三十日には、寛は蕨を採りて喰料を補わんとして、草鞋はきにて藁叺《わらかます》を脊負い、手には小なる籠を持ち、籠に満《みつ》る時は藁叺に入るる事とせり。然るに片山夫婦は予に告げて曰く、通例の和服にては、小虫を防ぐには足らず、迚《とて》も耐忍すべからずと。斯く示されたりしも、強《しい》て和服にて股引をはきて出掛けたり。然るに初めての事なるを以て、最も近き山に入《い》り、蕨を採り
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