囲《めのまわり》に向て集るを以て、絶えず手にて払わざる時は尚多く集りて耐ゆべからず。依て手にて絶えず払いたり。然れども右手《めて》に籠を持ち、左手《ゆんで》にて蕨を採るゆえに、小虫を払う時は蕨を採る事能わず。故に時々は籠を手より離して、地上に置く事あり。為めに蕨を採る事少きを以て、翌日より籠に紐をつけて頸にかけて出懸たり。依て都合よく片手に蕨を採り、片手にて絶えず小虫を払いたり。此れにて蕨は多く採りて、籠に満《みつ》れば叺にうつして脊負たり。然れども後《うしろ》には叺を脊負い、前には籠をさげて、体には厚き木綿着類を重ねたるゆえに、総身の重きと且つ前後にぶらさげたるゆえに、慣れざる老体には実に苦き事多きも、日々勤めて四五町を隔てたる処にて採りたりしも、追々耐忍力も出来且つ慣れたるを以て多く採る事となれり。依て尚多く採らんとの希望を起し、八九町も隔りたる所に多くあるを知り、且つ片山ウタ谷利太郎は其近き畑にて仕事をするを以て、其処《そこ》に出懸けたり。然るに蕨は多く採りて叺に入れたるに、僅に六七貫目たるも、予が老体には重きに耐えざるを以て、地上に叺を置き専ら蕨を採りたり。然るに蕨の多く採れる
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