屋上の[#「屋上の」に白丸傍点]禽《とり》の如くなりしが今は稍《や》やこれを得たる[#「これを得たる」に傍点]かと思はるゝ云々」と。ソモ屋上の禽とは如何《いか》なる意味を有するや、予は之を解するに苦む。独乙《ドイツ》の諺《ことわざ》に曰く「屋上の鳩《はと》は手中の雀《すゞめ》に如《し》かず」と。著者の屋上の禽とは此諺の屋上の鳩を意味するもの歟《か》。果して然らば少しく無理の熟語と謂はざる可《べ》からず。何となれば独乙の諺は日本人に不案内なればなり。況《いは》んや「屋上の鳩」の語は「手中の雀」と云へる語を俟《ま》ツて意味あるものに於てをや。蓋《けだ》し此《かく》の如き些細《ささい》を責むるも全く本篇が秀逸の傑作なれば也。
 本篇一○頁上段に「表てのみは一面に氷りて朝に戸を開けば飢ゑ凍《こゞ》えし雀の落ちて死に[#「雀の落ちて死に」に白丸傍点]たるも哀れなり云々」の語あるを以ツて人或は独乙は温かき生血を有する動物が凍死する程|寒威《かんゐ》凛烈《りんれつ》の国なるやと疑ふものあり。然れども独乙には実際寒威其者よりも寧《むし》ろ氷雪の為めに飼料を求むる能はざるが為めに飢死[#「飢死」に白丸傍
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