点]する小動物ありと聞く。著者の冬期を景状せしは増飾の虚言にあらずして実際なり。故《ゆゑ》に一言以つて著者の為めに弁護するものなり。
 依田学海先生国民之友の附録を批して曰く、「舞姫」は残刻に終り、「拈華微笑《ねんげみせう》」は失望に終り、「破魔弓《はまゆみ》」は流血に終り、「酔沈香」は嘆息に終る。嗚呼《あゝ》近世の小説は歓天喜地愉快を写さずして、総て悲哀を以て終らざる可からざる乎《か》と。小説の真味|豈《あ》に啻《たゞ》に消極的の運命を写すのみならんや。学海翁をして此言をなさしむ、嗚呼果して誰の罪ぞ(半之丞《はんのじよう》曰く、此は決つして、「舞姫」を非難するに非ず)。
 予は前述の如く「舞姫」に対して妄評を加ふと雖も兎《と》に角《かく》本篇は稀有《けう》の好著なり。若《も》し小説界の明治廿一年以前を春のや支配の時代《ペリヲデー》となし、廿二年を北※[#「亡+おおざと」、第3水準1−92−61]、美妙、紅葉支配の時代となさば、明治廿三年は恐《おそら》くは鴎外、露伴二氏支配の時代ならん。予は信ず、本年の文壇に於て覇権《はけん》を握るものは此二氏に在ることを。
[#地から2字上げ](明治
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