写さざる戯曲を称して猶《な》ほ良好なるものと謂《い》ふ乎、原因に注目する者を称して猶ほ偏聴の誚を免れざるものとなす乎。
又飜つて小説を見るに、苟《いやし》くも小説の名を下し得べき小説は如何《いか》なるものと雖も、悉《こと/″\》く人物の意思と気質とに出づる行為、及び其結果より成立せざるはなし。人物の一枯一栄一窮一達は総《すべ》て其行為の結果なり。故に行為は結果に対する源因となるなり。禍に罹《かゝ》るも福を招くも其《その》源《げん》を尋ぬれば、行為は明然之が因《いん》をなす。別言すれば結果は源因の写影たるに外ならず。此源因は即ち広意に於ける罪過と同一意義なり。(以下に用ふる罪過の語は衝突《コンフリクト》と同一なりと思ひ玉へ)世に偶然の出来事なし、豈《あ》に罪過なきの結果あらんや。手を相場に下して一攫千金《いつくわくせんきん》の利を得るも、志士仁人が不幸数奇なることあるも、悪人栄えて善人|亡《ほろ》ぶることあるも、尊氏《たかうぢ》が征夷《せいい》大将軍となるも、正成《まさしげ》が湊川《みなとがは》に戦死するも、総て何処《いづこ》にか罪過なくんばあらず。罪過なくんば結果なし。結果なくんば行
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