ピール》等も悲哀戯曲と同じく尊重せらるゝ現代に在《あ》らしめば、彼は決ツして悲哀戯曲のみに通用する「罪過」の語を用ひずして、必ず一般に通用する他語を用ひしに相違なし。故に近世の詩学家は罪過の語の代りに衝突「コンフリクト」の語を用ふ。而《しか》して曰《い》ふ、トラゲヂーの出来事は人物が其力量識見徳行の他に超抜するにも係《かゝ》はらず、不幸の末路に終へしむる所の衝突《コンフリクト》を有し、コムメヂーの出来事は素志を全うし幸福嬉楽の境に赴《おもむ》かしむる所の衝突《コンフリクト》を有すと。アヽ世に人物に対する衝突なきの出来事ある乎《か》。若し之れありとせば、ソは最早《もはや》出来事《エルアイグニス》とは称すべからざるなり。是《これ》を以つて之を視《み》れば、罪過も衝突《コンフリクト》も行為結果の動力を意味するに至つては同一なり。只意義に広狭の差あるのみ。されば罪過説を排斥するものは衝突説をも排斥するものなり。アリストテレスの罪過を広意に敷延すれば即ち結果に対する原因なり、末路に対する伏線なり(復《ま》た其不幸に終ると幸福に終るとを問はず)。試みに鴎外漁史に問はん、漁史は結果のみを写して原因を
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