罪過は戯曲のみにあるべきものにして決して小説にあるべからずと言ふ者あらば、吾人は別論として猶《な》ほ其|誤謬《ごびう》を駁《ばく》せんと欲するなり。
 鴎外漁史は曾つてS・S・S・社を代表して「しがらみ艸紙《さうし》」の本領を論ぜしことあり。中に言へるあり、曰く、
[#ここから1字下げ]
 伝奇の精髄を論じてアリストテレスの罪過論を唯一の規則とするは既に偏聴の誚《せめ》を免れず、況《いは》んやこれを小説に応用せんとするをや
[#ここで字下げ終わり]
云々と。又医学士山口寅太郎氏も「しがらみ艸紙」第四号の舞姫評中に言へるあり、曰く、
[#ここから1字下げ]
 忍月居士がアリストテレスの罪過説を引て小説を論ずるが如きものは豈《あに》其正を得たるものならんや
[#ここで字下げ終わり]
云々と。吾人は先づ順を追ふて二氏の論の当否を判定せんと欲す。二氏共に罪過論は偏曲なり、又は小説に応用すべからずと断定せしのみにして、毫《がう》も其理由を言はず。素《もと》より他を論議するのついでに此言《このこと》を附加せしものなれば、二氏も冗長をさけて其理由を言はざりしものならん。然れども吾人は其理由を聞かずん
前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石橋 忍月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング