ゐる。這入つて行くともう十四五名もが自分の番の来るのを待つてゐた。眼帯をかけたり、さうでないものは充血した赤い眼をしたりして、誰もまぶしさうに下を向いてゐた。半数は盲人で、他は盲目の一歩手前を彷徨してゐる人達である。私はそこで長い間待つた。
私は右眼が充血して兎の眼のやうになつてゐたので、なるべくその眼は閉ぢてゐるやうにしてゐた。二三回ローソクの火でものを書いたりしたのがいけなかつたのである。私はひどく憂鬱であつた。
番が来ると、私は暗室の中へ這入つて行つた。不用意に開いてゐた右眼に、強烈な電光がさして来て、私は急いで瞼をおろした。眼が痛んだ。
「ははあ、少し無理をしましたね。」
と若い医者は言つて、瞼をひつくり返すと、二三滴、薬を注《さ》した。そして四五日休みなさいよと言つてくれた。たつた二三夜無理をしただけでもう充血したりするとすれば、私の眼もどうやら暗い方へ近づき始めたのであらう。盲目の世界がどつと眼の前に現はれて来たやうに思つた。眼帯をかけて貰ふと、私は片目になつて暗室を出て来た。
部屋へ帰つて来ると、何時ものやうに机の前に坐つてみた。目ぐすりがしみて来て痛んだ。本を読
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