外に出た友
北條民雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)薬を注《さ》した。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「雨かんむり/誨のつくり」、60−3]爛《ばいらん》
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「二三年、娑婆の風にあたつて来るよ。」
 退院するY――を見送つて行くと、門口のところで彼はさう言つて私の手を握つた。
「うん、体、大切にしろ、な。」
 と言つて、私はYの手を握りかへしてやつた。それ以上は何も言ふことがなかつた。手を放すとYは柊の垣に沿つて駅の方へ歩いて行つた。
 Yの姿が見えなくなると、私はその足で眼科へ出かけた。Yとは、私はもう二年近い交遊をもつてゐる。彼は三年をこの病院で暮したが、病気の工合は余り良いやうではなかつた。私は彼の右腕の神経が小指ほどにも脹れ上つてゐるのを知つてゐる。眼科へ着くまでの間、私は彼が神経痛を始めて苦しみはせぬかと心配した。病院を出てはナルコポンやパントポンも思ふやうには注射出来ないに違ひない。
 眼科は医局の中ほどで外科と隣接して
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