であった。もっとも、慣れてしまえばなんでもないのだろうけれども、しかしそう容易に慣れられるものではなかったし、私の場合になってみると、今までそんなに悪いとも思わなかつた眼が不意に充血し、今や盲目の世界に向かって一歩足を踏み入れたのだという感じ、その感じがあるものだから余計暗い気持にならされたのである。
私は終日いらいらした気持で暮らした。何か眼のさきに払っても払っても無くならない黒い幕のようなものが垂れ下がって、絶えず眼界を邪魔しているような感じがしてならないのだ。すると暑くもないのに体中にじりじり汗が出て頭に血が上り、腹が立って来て一日に十度も十一度も眼帯をむしり取る。むしり取るたびに強い光線がはいり、瞼の下が痛むので、いけない、と自分を叱ってまた掛けるのだった。あたりがなんとなく暗がっているように感じられて、明るい真昼間でありながら、なんとなく夜のような気がする。今はたしかに明るい昼だ、しかし、はたしてほんとにこれが昼だろうか、これが光のある昼だろうか、これは夜ではないだろうか、これがほんとに昼だとしたら、夜というものはどこにあるのだろう、昼と夜とを区別して考える人間の習慣ははた
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