ちがほしくなったのでしょう、仔犬の泣き声が、キャンキャンと悲しそうに聞えて来ます。
 その時、まだ生れて間もないようなちいちゃな仔犬が、ちょこちょこと駈けて来ました。
 きっと箱の中の、お友達の泣き声を聞いて、どうしたのか、と思って出て来たのでしょう。仔犬は大きな箱を眺めて、不思議そうに考え込みました。
 恐しい二人の犬殺は、やがてこの仔犬を見つけてしまいました。
「おや、こんな小さいのが出て来たぞ。」
「これはすてきだ。どれ、捕えてやろうか。」
 二人の犬殺は、両方から、仔犬をかこんで、はさみうちにしようとしています。
「まあ、可哀そうだわ。」
 ミコちゃんは思わず声を出してしまいました。すると、その声を聞いたのか、仔犬は急に走って来て、ミコちゃんの足にじゃれつきました。急いでミコちゃんは仔犬を抱き上げました。
 それを見た二人の犬殺は
「こら! 早く犬を出さんと、お前も、箱の中へぶち込むぞ!」
 と叫んで、ミコちゃんをにらみつけました。
「いや、いやだわ。」
「どうしても出さんと言うんだな!」
 大声で犬殺はそう言うと、無理にミコちゃんの手から仔犬をもぎ取ろうとします。ミコちゃんは力一パイに仔犬を抱いていましたが、大きな男にかかっては、かないません。とうとう取り上げられてしまいました。
「さあ箱の中へはいっておれ!」
 可哀そうに、仔犬は首をつかまれて箱の中へ投込まれました。
 ミコちゃんは可哀そうで可哀そうでなりません。なんとかして助けてやろうと決心しました。
「ね、おじさん。あたいがその犬飼うわ。だから下さいな。ね、おじさん、いいでしょう。」
 ミコちゃんは一生懸命にたのみました。けれどだめです。
 箱の中へ入れられた仔犬は、急に悲しくなったのか、キャンキャンキャンと泣いて、のどが破れて血が出るかと思われる程です。早くお家へ帰って、お母様のおなかの下で温まりたくなったのでしょう、箱の中から、板を引っ掻いては泣くのでした。けれど仔犬の力ではどうすることも出来ません。
 それを見ていると、ミコちゃんも、なんだか悲しくなって来ました。
 その時、黒いマントを着たやさしいおまわりさんが来て、ミコちゃんの頭をなでながら、
「感心な児じゃ。よしよし。おじさんが助けて上げよう。」
 と言って、箱の中から、さっきの仔犬を出してくれました。さあ、ミコちゃんは大よろこびです。

前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北条 民雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング