のように青くて、宝石のような美しさです。
「ふうむ。わしはこの年になるまで、こんな綺麗なすみれは見たことはない。」
 と思わず感嘆しました。けれど、それが余り淋しそうなので、
「すみれ、すみれ、お前はどうしてそんなに淋しそうにしているのかね。」
 と尋ねました。
 すみれは、黙ってなんにも答えませんでした。
 その翌日、じいさんは、いよいよ町へ出発しようと思って、わらじを履いている時、ふと昨日のすみれを思い出しました。
 すみれは、やっぱり昨日のように、淋し気に咲いて居ります。じいさんは考えました。
「わしが町へ行ってしまったら、このすみれはどんなに淋しがるだろう。こんな小さな体で、一生懸命に咲いているのに。」
 そう思うと、じいさんはどうしても町へ出かけることが出来ませんでした。
 そしてその翌日もその次の日も、じいさんはすみれのことを思い出してどうしても出発することが出来ませんでした。
「わしが町へ出てしまったら、すみれは一晩で枯れてしまうに違いない。」
 じいさんはそういうことを考えては、町へ行く日を一日一日伸ばして居りました。
 そして、毎日すみれの所へ行っては、水をかけてやっ
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