しむためには才能が要るって。苦しみ得ないものもあるのです」
そして佐柄木は一つ大きく呼吸すると、足どりまでも一歩一歩大地を踏みしめて行く、ゆるぎのない若々しさに満ちていた。
あたりの暗がりが徐々に大地にしみ込んで行くと、やがて燦然《さんぜん》たる太陽が林のかなたに現われ、縞目を作って梢を流れて行く光線が、強靭な樹幹へもさし込み始めた。佐柄木の世界へ到達し得るかどうか、尾田にはまだ不安が色濃く残っていたが、やはり生きてみることだ、と強く思いながら、光の縞目を眺め続けた。
(昭和十一年『改造』二月号)
[#入力者註:以下の九ヶ所の底本のミスと思われるものは全集版に合わせて修正した。
全集版:東京創元社『定本北條民雄全集・上巻』昭和五十五年刊
数字は定本のページ数と行数を示す。「底本」→「修正」
5−13「識らず墜《お》ち込んで」→「識らず堕《お》ち込んで」
6−1「傾き初めた太陽の」→「傾き始めた太陽の」
8−2「患者の生活もその」→「患者の住居もその」
14−17「一端を摘《つか》み取る」→「一端を掴《つか》み取る」
15−9「眉を窄《すぼ》めた」→「肩を窄《すぼ
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