。佐柄木さん。お願いですから、どうか教えてください」
 太い眉毛をくねくねと歪めて佐柄木は笑う。
 「ね、お願いです。どうか、教えてください。ほんとうにこのとおりです」
 両掌を合わせ、腰を折り、お祈りのような文句を口の中で呟く。
 「ふん、教えるもんか、教えるもんか。貴様はもう死んでしまったんだからな。死んでしまったんだからな」
 そして佐柄木はにたりと笑い、突如、耳の裂けるような声で大喝した。
 「まだ生きてやがるな、まだ、貴、貴様は生きてやがるな」
 そしてぎろりと眼をむいた。恐ろしい眼だ。義眼よりも恐ろしいと尾田は思う。逃げようと身構えるがもう遅い。さっと佐柄木が樹上から飛びついて来た。巨人佐柄木に易々《やすやす》と小腋《こわき》に抱えられてしまったのだ。手を振り足を振るが巨人は知らん顔をしている。
 「さあ火炙りだ」
と歩き出す。すぐ眼前に物凄い火柱が立っているのだ。炎々たる焔の渦がごおうっと音をたてている。あの火の中へ投げ込まれる。身も世もあらぬ思いでもがく。が及ばない。どうしよう、どうしよう、灼熱した風が吹いて来て貌《かお》を撫でる。全身にだらだらと冷汗が流れ出る。佐柄木
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