はどう生きる態度を定めたら良いのだろう」
 発病以来、初めて尾田の心に来た疑問だった。尾田は、しみじみと自分の掌を見、足を見、そして胸に掌をあててまさぐってみるのだった。何もかも奪われてしまって、ただ一つ、生命だけが取り残されたのだった。今さらのようにあたりを眺めて見た。膿汁に煙った空間があり、ずらりと並んだベッドがある。死にかかった重症者がその上に横たわって、他は繃帯でありガーゼであり、義足であり松葉杖であった。山積するそれらの中に今自分は腰かけている。――じっとそれらを眺めているうちに、尾田は、ぬるぬると全身にまつわりついて来る生命を感じるのであった。逃れようとしても逃れられない、それは、鳥黐《とりもち》のようなねばり強さであった。
 便所から帰って来た佐柄木は、男を以前のように寝かせてやり、
 「ほかに何か用はないか」
と訊きながら布団をかけてやった。もう用はないと男が答えると、佐柄木はまた尾田の寝台に来て、
 「ね、尾田さん。新しい出発をしましょう。それには、まず癩に成りきることが必要だと思います」
と言うのであった。便所へ連れて行ってやった男のことなど、もうすっかり忘れている
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