されたばかりのあなたに大変無慈悲な言葉かもしれません。今の言葉。でも同情するよりは、同情のある慰めよりは、あなたにとっても良いと思うのです。実際、同情ほど愛情から遠いものはありませんからね。それに、こんな潰れかけた同病者の僕がいったいどう慰めたら良いのです。慰めのすぐそこから嘘がばれて行くに定まっているじゃありませんか」
 「良く解りました、あなたのおっしゃること」
 続けて尾田は言おうとしたが、その時、
 「どうじょぐざん」
と嗄れた声が向こう端の寝台から聞こえて来たので口をつぐんだ。佐柄木はさっと立ち上がると、その男の方へ歩んだ。「当直さん」と佐柄木を呼んだのだと初めて尾田は解した。
 「なんだい用は」
とぶっきら棒に佐柄木が言った。
 「じょうべんがじたい」
 「小便だなよしよし。便所へ行くか、シービンにするか、どっちが良いんだ」
 「べんじょさいぐ」
 佐柄木は馴れきった調子で男を背負い、廊下へ出て行った。背後から見ると、負われた男は二本とも足が無く、膝小僧のあたりに繃帯らしい白いものが覗いていた。
 「なんというもの凄い世界だろう。この中で佐柄木は生きると言うのだ。だが、自分
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