た女が着ていたのと同じ棒縞の着物であった。
 小学生にでも着せるような袖の軽い着物を、風呂からあがって着け終わった時には、なんという見窄《みすぼ》らしくも滑稽な姿になったものかと尾田は幾度も首を曲げて自分を見た。
 「それではお荷物消毒室へ送りますから――。お金は拾壱円八十六銭ございました。二、三日の中に金券と換えて差し上げます」
 金券、とは初めて聞いた言葉であったが、おそらくはこの病院のみで定められた特殊な金を使わされるのであろうと尾田はすぐ推察したが、初めて尾田の前に露呈した病院の組織の一端を掴《つか》み取ると同時に、監獄へ行く罪人のような戦慄《せんりつ》を覚えた。だんだん身動きもできなくなるのではあるまいかと不安でならなくなり、親爪をもぎ取られた蟹《かに》のようになって行く自分のみじめさを知った。ただ地面をうろうろと這い廻ってばかりいる蟹を彼は思い浮かべて見るのであった。
 その時廊下の向こうでどっと挙《あ》がる喚声が聞こえて来た。思わず肩を竦《すく》めていると、急にばたばたと駈け出す足音が響いて来た。とたんに風呂場の入口の硝子《ガラス》戸が開くと、腐った梨のような貌《かお》が
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