であらう、「昔《むかし》」と云《い》ふ字《じ》ハ、廿一|日《にち》と書くから、まア廿一|日《にち》に行《い》つて見なさい。成程《なるほど》と思つて当日《たうじつ》行《い》つて見ると、幟等《のぼりなど》を建《た》て盛《さか》んに落語《はなし》の会《くわい》があつたといふ。して見ると無理に衆人《ひと》に聴《き》かせよう、と云《い》ふ訳《わけ》でも何《なん》でもなかつたのでござります。
恁《かゝ》る事は円朝《わたくし》も薩張《さつぱり》存《ぞん》ぜずに居《を》りましたが、彼《か》の談洲楼焉馬《だんしゆうろうえんば》が認《したゝ》めた文に依《よつ》て承知《しようち》いたしました。其文《そのぶん》に、
「夫《それ》羅山《らざん》の口号《こうがう》に曰《いはく》、萬葉集《まんえふしふ》は古詩《こし》に似《に》たり、古今集《こきんしふ》は唐詩《たうし》に似《に》たり、伊勢物語《いせものがたり》は変風《へんぷう》の情《じやう》を発《はつ》するに贋《にせ》たり、源氏物語《げんじものがたり》は荘子《さうし》と天台《てんだい》の書《しよ》に似《に》たりとあり。爰《こゝ》に宇治拾遺物語《うぢしふゐものがたり》と云《い》へるは、大納言隆国卿《だいなごんたかくにきやう》皐月《さつき》より葉月《はづき》まで平等院《びやうどうゐん》一切経《いつさいきやう》の山際《やまぎは》南泉坊《なんせんばう》に籠《こも》りたまひ、あふさきるさの者のはなし、高き賤《いや》しきを云《い》はず、話に従《したが》ひ大《おほ》きなる草紙《さうし》に書かれけり、貴《たつと》き事もあり、哀《あは》れなる事もあり、少しは空物語《そらものがたり》もあり、利口《りこう》なる事もありと前文《ぜんぶん》に記《しる》し置《お》かれたり、竹取物語《たけとりものがたり》、宇津保物語《うつぼものがたり》は噺《はなし》の父母《ちゝはゝ》にして、夫《それ》より下《しも》つ方《かた》に至《いた》りては、爺《ぢゞ》は山へ、婆《ばゞ》は川へ洗濯《せんたく》、桃《もゝ》の流れしと云《い》ふ事を始め、其咄《そのはなし》の種《たね》、夭々《よう/\》として其葉《そのは》秦々《しん/\》たり。されば竹に囀《さへづ》る舌切雀《したきりすゞめ》、月に住む兎《うさぎ》の手柄《てがら》、何《いづ》れか咄《はなし》に洩《もれ》ざらむ、力をも入れずして顋《おとがひ》のかけがねを外《はづ》させ、高き華魁《おいらん》の顔をやはらぐるも是《これ》なり。此噺《このはなし》日外《いつぞや》下《しも》の日待《ひまち》の時《とき》開始《ひらきはじ》めしより、いざや一|会《くわい》催《もよほ》さんと、四方赤良大人《よものあからうし》、朱楽管江大人《あけらくわんかううし》、鹿都辺真顔《しかつべまがほ》、大屋《おほや》の裏住《うらずみ》、竹杖《たけづゑ》の為軽《すがる》、つむりの光、宿屋《やどや》の飯盛《めしもり》を始めとして、向島《むかうじま》の武蔵屋《むさしや》に落語《らくご》の会《くわい》が権三《ごんざ》り升《ます》と、四方《よも》の大人《うし》の筆《ふで》にみしらせ、おのれ焉馬《えんば》を判者《はんじや》になれよと、狂歌《きやうか》の友どち一|百《ぴやく》余人《よにん》、戯作《げさく》の口を開けば、遠からん者は長崎《ながさき》から強飯《こはめし》の咄《はなし》、近くば、寄《よつ》て三升《みます》の目印《めじるし》、門前《もんぜん》に市《いち》を為《な》すにぞ、のど筒《づゝ》の往来《わうらい》かまびすしく、笑ふ声《こゑ》富士《ふじ》筑波《つくば》にひゞく。時に天明《てんめい》四ツの年《とし》甲辰《きのえたつ》四|月《ぐわつ》廿一|日《にち》なり。夫《それ》より両国尾上町《りやうごくをのへちやう》、京屋《きやうや》が楼上《ろうじやう》に集会《しふくわい》する事十|歳《とせ》あまり、之《これ》を聞くものおれ我《わ》れに語り、今は世渡《よわた》るたつきともなれり、峨江《がこう》初《はじめ》は觴《さかづき》を泛《うか》め、末《すゑ》は大河《たいが》となる噺《はなし》も末《すゑ》は金銭《きんせん》になるとは、借家《しやくや》を貸《か》して母屋《おもや》を取らるゝ譬《たとへ》なるべし、とは云《い》へ是《これ》も大江戸《おほえど》の有《あり》がたき恵《めぐ》みならずや。
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よいおとし噺《ばなし》も年《とし》も七十の
市《いち》が栄《さか》へて千代《ちよ》やよろづよ
文化十癸酉春
談語楼銀馬《だんごろうぎんば》の需《もとめ》に応《おう》じて
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[#地から1字上げ]七十一|翁《をう》、烏亭焉馬《うていえんば》
[#地から2字上げ]於談洲楼机下述《だんしゆうろうきかにお
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