ますが、仕事にかけては当時無類と誉められ、江戸町々の豪商《ものもち》はいうまでもなく、大名方の贔屓《ひいき》を蒙《こうむ》ったほどの名人で、其の拵《こしら》えました指物も御維新《ごいっしん》前までは諸方に伝わって珍重されて居りましたが、瓦解《がかい》の時二束三文で古道具屋の手に渡って、何《ど》うかなってしまいましたものと見えて、昨今は長二の作というものを頓《とん》と見かけません。世間でも長二という名人のあった事を知っている者が少《すくの》うございますから、残念でもありますし、又先頃弁じました名人|競《くらべ》のうち錦の舞衣《まいぎぬ》にも申述べた通り、何芸によらず昔から名人になるほどの人は凡人でございませぬゆえ、何か面白いお話があろうと存じまして、それからそれへと長二の履歴を探索に取掛りました節、人力車から落されて少々怪我をいたし、打撲《うちみ》で悩みますから、或人の指図で相州《そうしゅう》足柄下郡《あしがらしもごおり》の湯河原《ゆがわら》温泉へ湯治《とうじ》に参り、温泉宿|伊藤周造《いとうしゅうぞう》方に逗留中、図らず長二の身の上にかゝる委《くわ》しい事を聞出しまして、此のお話が出来
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