夫を殺して奸夫を引入れ、財産を押領《おうりょう》いたしたのみならず、実子をも亡《うしな》わんといたした無慈悲の女、天道|争《いか》でこれを罰せずに置きましょう長二郎の孝心厚きに感じ、天が導いて実父の仇を打たしたものに違いないという理解に、家齊公も感服いたされまして、其の旨を御老中へ御沙汰に相成り、御老中から直《たゞ》ちに町奉行へ伝達されましたから、筒井和泉守様は雀躍《こおどり》するまでに喜ばれ、十一月二十九日に長二郎を始め囚人《めしゅうど》玄石茂二作、並に妻《つま》由其の他《た》関係の者一同をお呼出しになって白洲を立てられました。

        三十九

 此の日は筒井和泉守様は、無釼梅鉢《けんなしうめばち》の定紋《じょうもん》付いたる御召《おめし》御納戸《おなんど》の小袖に、黒の肩衣《かたぎぬ》を着け茶宇《ちゃう》の袴にて小刀《しょうとう》を帯し、シーという制止の声と共に御出座になりまして、
 奉行「訴人長二郎、浅草鳥越片町龜甲屋手代萬助、本所元町與兵衛[#「與兵衛」は底本では「與兵徳」と誤記]店恒太郎、下谷稲荷町徳平店茂二作並に妻由、越中国高岡無宿玄石、其の外町役人組合の者残ら
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