たゞ》して、確《たしか》に相違|無《ね》えと思うところへ、お二人で尋ねて来てくだすったのは、親子の名告《なのり》をしてくんなさるのかと思ったら、そうで無えから我慢が出来ず、私の方から云出したのが気に触ったのか、但しは無慈悲を通す気か、気違だの騙りだのと人に悪名《あくみょう》を付けて帰《けえ》って行くような酷《むご》い親達から、金なんぞ貰う因縁が無えから、先刻《さっき》の五十両を返《けえ》そうと捷径《ちかみち》をして此処《こゝ》に待受け、おもわず聞いた今の話、もう隠す事ア出来ねえだろう、お母さん、何うかお前《めえ》さんに云い難《にく》い事があるかア知りませんが、決して他《ひと》には云わねえから、お前《めえ》を産んだお母《ふくろ》だといってくだせい……お願いです……また旦那は私の本当のお父《とっ》さんか、それとも義理のお父さんか聞かしてくだせい」
 と段々幸兵衞の傍《そば》へ進んで、袂に縋る手先を幸兵衛は振払いまして、
 幸「何をしやアがる気違|奴《め》……去年谷中の菩提所で初めて会った指物屋、仕事が上手で心がけが奇特《きどく》だというので贔屓にして、仕事をさせ、過分な手間料を払ってやれば附けあがり、途方もねえ言いがゝりをして金にする了簡だな、其様《そん》な事に悸《びく》ともする幸兵衞じゃア無《ね》えぞ……えゝ何をするんだ、放せ、袂が切《きれ》るア、放さねえと打擲《ぶんなぐ》るぞ」
 と拳を振上げました。
 長「打《ぶ》つなら打ちなせえ、お前《めえ》さんは本当の親じゃアねえか知らねえが、お母《っか》さんは本当のお母さんだ……お母さん、何故|私《わっち》を湯河原へ棄てたんです」
 とお柳の傍へ進もうとするを、幸兵衛が遮《さえぎ》りながら、
 幸「何をしやアがる」
 と云いさま拳固で長二の横面《よこつら》を殴りつけました。そうでなくッても憎い奴だと思ってる所でございますから、長二は赫《かっ》と怒《いか》りまして、打った幸兵衛の手を引《ひ》とらえまして、
 長「打《ぶ》ちゃアがったな」
 幸「打たなくッて泥坊め」
 長「何だと、何時己が盗人《ぬすっと》をした」
 幸「盗人だ、此様《こん》な事を云いかけて己の金を奪《と》ろうとするのだ」
 長「金が欲《ほし》いくれえなら、此の金を持って来《き》やアしねえ、汝《うぬ》のような義理も人情も知らねえ畜生の持った、穢《けがら》わしい金は
前へ 次へ
全83ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング