《え》でも彫物《ほりもの》でも芸人でも同じ事で、銭を取りたいという野卑な根性や、他《ひと》に褒められたいという※[#「「滔」の「さんずい」に代えて「言」」、第4水準2−88−72]諛《おべっか》があっては美《い》い事は出来ないから、其様《そん》な了簡を打棄《うッちゃ》って、魂を籠めて不器用に拵えて見ろ、屹度《きっと》美い物が出来上るから、不器用にやんなさいと毎度申しますので、遂に不器用長二と綽名《あだな》をされる様になったのだと申すことで。
二
不器用長二の話を、其の頃浅草蔵前に住居いたしました坂倉屋助七《さかくらやすけしち》と申す大家《たいけ》の主人が聞きまして、面白い職人もあるものだ、予《かね》て御先祖のお位牌を入れる仏壇にしようと思って購《もと》めて置いた、三宅島の桑板があるから、長二に指《さ》させようと、店の三吉《さんきち》という丁稚《でっち》に言付けて、長二を呼びにやりました。其の頃蔵前の坂倉屋と申しては贅沢を極《きわ》めて、金銭を湯水のように使いますから、諸芸人はなおさら、諸職人とも何卒《どうか》贔屓を受けたいと願う程でございますゆえ、大抵の職人なら最上等のお得意様が出来たと喜んで、何事を措《お》いても直《すぐ》に飛んでまいるに、長二は三吉の口上を聞いて喜ぶどころか、不機嫌な顔色《かおつき》で断りましたから、三吉は驚いて帰ってまいりました。助七は三吉の帰りを待ちかねて店前《みせさき》に出て居りまして、
助「三吉|何故《なぜ》長二を連れて来ない、留守だったか」
三「いゝえ居りましたが、彼奴《あいつ》は馬鹿でございます」
助「何《なん》と云った」
三「坂倉屋だか何だか知らないが、物を頼むに人を呼付けるという事アない、己《おら》ア呼付けられてへい/\と出て行くような閑《ひま》な職人じゃアねえと申しました」
助「フム、それじゃア何か急ぎの仕事でもしていたのだな」
三「ところが左様《そう》じゃございません、鉋屑《かんなくず》の中へ寝転んで煙草を呑んでいました、火の用心の悪い男ですねえ」
助「はてな……手前何と云って行った」
三「私《わたくし》ですか、私は仰しゃった通り、蔵前の坂倉屋だが、拵えてもらう物があるから直に来ておくんなさい、蔵前には幾軒も坂倉屋があるから一緒にまいりましょうと云ったんでございます」
助「手前入ると突然
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