島「ではございましょうが、このお仏壇をお打ちなさるのは御先祖様をお打ちなさるようなものではございませんか」
助「ムヽ左様《そう》かな」
と助七は一時《いちじ》お島の言葉に立止りましたが、扨《さて》は長二の奴も、先祖の位牌を入れる仏壇ゆえ、遠慮して吾《われ》が打つまいと思って、斯様《かよう》な高言を吐《は》いたに違いない、憎さも憎し、見事叩っ毀して面の皮を引剥《ひんむ》いてくりょう。と額に太い青筋を出して、お島を押退《おしの》けながら、
助「まだお位牌を入れないから構う事アない……見ていろ、ばら/\にして見せるから」
と助七は才槌を揮《ふ》り上げ、力に任せて何処という嫌いなく続けざまに仏壇を打ちましたが、板に瑕《きず》が付くばかりで、止口《とめぐち》釘締《くぎじめ》は少しも弛《ゆる》みません。助七は大家《たいけ》の主人で重い物は傘の外《ほか》持った事のない上に、年をとって居りますから、もう力と息が続きませんので、呆れて才槌を投《ほう》り出して其処《そこ》へ尻餅をつき、せい/\いって、自分で右の手首を揉みながら、
助「お島……水を一杯……速く」
と云いますから、お島が急いで持ってまいった茶碗の水をグッと呑みほして太息《おおいき》を吐《つ》き、顔色を和《やわら》げまして、
助「親方……恐入りました……誠に感服……名人だ……名人の作の仏壇、千両でも廉《やす》い、約束通り千両出しましょう」
長「アハヽヽ精神《たましい》を籠めた処が分りましたか、私《わっちゃ》ア自慢をいう事ア大嫌《だいきら》いだが、それさえ分れば宜《よ》うがす、此様《こんな》に瑕が付いちゃア道具にはなりませんから、持って帰って其の内に見付かり次第、元の通りの板はお返し申します」
助「そりゃア困る、瑕があっても構わないから千両で引取ろうというのだ」
長「千両なんて価値《ねうち》はありません」
助「だって先刻《さっき》賭《かけ》をしたから」
長「そりゃア旦那が勝手に仰しゃったので、私《わたくし》が千両下さいと云ったのじアねえのです、私《わっち》ア賭事ア性来《うまれつき》嫌いです」
助「左様《そう》だろうが、これは別物だ」
長「何だか知りませんが、他《ひと》の仕事を疑ぐるというのが全体《ぜんてえ》気にくわないから持って帰るんです、銭金《ぜにかね》に目を眩《く》れて仕事をする職人じゃアご
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