になって後《のち》死んだ時、子上のためには実母でありますが、忌服《きふく》を受けさせませんから、子思の門人が聖人の教《おしえ》に背くと思って、何故《なにゆえ》に忌服をお受けさせなさらないのでございますと尋ねましたら、子思先生の申されるのに、拙者の妻《さい》であれば白のためには母であるによって、無論忌服を受けねばならぬが、彼は既に離縁いたした女で、拙者の妻でないから、白のためにも母でない、それ故に忌服を受けさせんのであると答えられました、礼記の記事は悪人だの人殺《ひとごろし》だのという事ではありませんが、道理は宜く合っております、ちょうど是《こ》の半右衞門が子思の所で、子上が長二郎に当ります、お柳は離縁にはなりませんが、女の道に背き、幸兵衞と姦通いたしたのみならず、奸夫と謀《はか》って夫半右衞門を殺した大悪人でありますから、姦通の廉《かど》ばかりでも妻たるの道を失った者で、半右衞門がこれを知ったなら、妻とは致して置かんに相違ありません、然《さ》れば既に半右衞門の妻では無く、離縁したも同じ事で、離縁した婦《おんな》は仮令《たとえ》無瑕《むきず》でも、長二郎のために母で無し、まして大悪無道、夫を殺して奸夫を引入れ、財産を押領《おうりょう》いたしたのみならず、実子をも亡《うしな》わんといたした無慈悲の女、天道|争《いか》でこれを罰せずに置きましょう長二郎の孝心厚きに感じ、天が導いて実父の仇を打たしたものに違いないという理解に、家齊公も感服いたされまして、其の旨を御老中へ御沙汰に相成り、御老中から直《たゞ》ちに町奉行へ伝達されましたから、筒井和泉守様は雀躍《こおどり》するまでに喜ばれ、十一月二十九日に長二郎を始め囚人《めしゅうど》玄石茂二作、並に妻《つま》由其の他《た》関係の者一同をお呼出しになって白洲を立てられました。
三十九
此の日は筒井和泉守様は、無釼梅鉢《けんなしうめばち》の定紋《じょうもん》付いたる御召《おめし》御納戸《おなんど》の小袖に、黒の肩衣《かたぎぬ》を着け茶宇《ちゃう》の袴にて小刀《しょうとう》を帯し、シーという制止の声と共に御出座になりまして、
奉行「訴人長二郎、浅草鳥越片町龜甲屋手代萬助、本所元町與兵衛[#「與兵衛」は底本では「與兵徳」と誤記]店恒太郎、下谷稲荷町徳平店茂二作並に妻由、越中国高岡無宿玄石、其の外町役人組合の者残ら
前へ
次へ
全83ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング