、それから段々慾が増長し、御新造様のくすねた金を引出して、五両一の下金貸《したかねかし》、貧乏人の喉を搾《し》めて高利を貪り仕上げた身代、貯るほど穢《きたな》くなる灰吹同前の貴公達の金だ、仮令《たとえ》借りても返さずには置かないのに、何だ金比羅詣り同様な銭貰いの取扱い、草鞋銭とは失礼千万、たとい金は貸さないまでも、遠国から出て来て、久しぶりで尋ねて来たのだ、此様《こん》な家《うち》へ泊りはしないが、お疲れだろうから一泊なさいとか、また鹿角菜《ひじき》に油揚の惣菜では喰いもしないが、時刻だから御飯をとか世辞にも云うべき義理のある愚老を、軽蔑するにも程があるて」
 由「おや大層お威張りだねえ、何ですとアノ」
 茂「お由黙っていろ、強請《ゆすり》だから」
 玄「なに強請だ、愚老が強請なら貴公達は人殺《ひとごろし》の提灯持だ」
 茂「やア、とんだ事をいう奴だ、何が人殺だ」
 玄「聞きたくば云って聞かせるが、貴公達は龜甲屋の旦那の病中に、愚老へ頼んだことを忘れたのか」
 と云われて、夫婦は恟《びっく》りして顔色を変え、顫《ふる》えながら小さな声をして、
 茂「これサ、それを云やア先生も同罪だぜ、まア静かにおしなさい、人に聞かれると善くないから」
 玄「それは万々承知さ、此様なことは云いたくは無いが、余《あんま》り貴公達が因業で吝嗇《けち》だからさ」
 由「それじゃお前さん虫がいゝというもんだ、先生お前さん彼《あ》の時御新造から百両貰ったじゃアありませんか」
 玄「百両ばかり何うなるものか、なくなったによって、又百両又百両と、千両ばかり段々に貰う心得で出て来て見ると、天道様は怖いもので、二人とも人手にかゝって殺されたというから、向後《きょうこう》悪事はいたさぬと改心をしたが、肝腎の金庫《かねぐら》が無くなって見ると、玄石殆んど路頭に迷う始末だから、已むを得ず幸いに天網《てんもう》を遁《のが》れて居《お》る貴公達へ、御頼談《ごらいだん》に及んだのさ」
 茂「それでも私《わし》にア一本という大金は」
 玄「出来ないというのを無理にとは申さんが、其の金が無い時は玄関を開く事も出来ず、再び郷里へ帰る面目もないによって、路傍に餓死するより寧《むし》ろ自から訴え出て、御法を受けた方が未来のためになろうと観念をしたのさ、其の時は御迷惑であろうが、貴公達から依頼を受けて斯々《こう/\》いたした
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