を開《ひら》くと、祝融《しゅくゆう》の神に憎まれて全焼《まるやけ》と相成ったじゃ、それからというものは為《す》る事なす事|※[#「易+鳥」、第4水準2−94−27]《いすか》の嘴《はし》、所詮《しょせん》田舎では行《ゆ》かんと見切って出府《しゅっぷ》いたしたのじゃが、別に目的もないによって、先ず身の上を御依頼申すところは、龜甲屋様と存じて根岸をお尋ね申した処、鳥越へ御転居に相成ったと承わり、早速伺ったら、いやはや意外な凶変、実に驚き入った事件で、定めて此方《こなた》にも御心配のことゝ存ずるて」
由「まことにお気の毒な事で、何とも申そう様《よう》がございません、定めてお聞でしょうが、お宅《うち》へお出入の指物屋が金に目が眩《く》れて殺したんですとサ」
玄「ふーむ、不埓千万な奴で……実に金が敵《かたき》の世の中です、然るに愚老は其の敵に廻《めぐ》り逢おうと存じて出府致した処、右の次第で当惑のあまり此方《こなた》へ御融通を願いに出たのですから、何卒《どうか》何分」
由「はい、折角のお頼みではございますが、此の節は実《まこと》に融通がわるいので、どうも」
玄「でもあろうが、お手許《てもと》に遊んで居らんければ他《た》からでも御才覚を願いたい、利分は天引でも苦しゅうないによって」
由「ハア、それは貴方のことですから、才覚が出来さいすれば何《ど》の様にも骨を折って見ましょうが、何分今が今と云っては心当りが」
玄「其処《そこ》を是非とも願うので」
と根強く掛合込《かけあいこ》みまして、お由にはなか/\断りきれぬ様子でありますから、茂二作は一旦脱いだ羽織を引掛《ひっか》け、裏口から窃《そっ》と脱出《ぬけだ》して表へ廻り、今帰ったふりで門口を明けましたから、お由はぬからぬ顔で、
由「おや大層早かったねえ」
茂「いや、これは岩村先生……まことにお久しい」
玄「イーヤお帰りですか、意外な御無音《ごぶいん》、実《じつ》に謝するに言葉がござらんて」
茂「何うなさったかと毎度お噂をして居りましたが、まアお変りもなくて結構です」
玄「ところがお変りだらけで不結構《ぶけっこう》という次第を、只今|御内方《ごないほう》へ陳述いたして居《お》るところで、実に汗顔《かんがん》の至りだが、国で困難をして出府いたした処、頼む樹陰《こかげ》に雨が漏るで、龜甲屋様の変事、進退|谷《きわ》
前へ
次へ
全83ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング